緊急事態条項とは

自民党の茂木幹事長は12日、読売新聞のインタビューに応じ、衆院選で憲法改正に前向きな日本維新の会や国民民主党が議席を伸ばしたことを踏まえ、改憲論議を加速し、緊急時に政府の権限を強化する「緊急事態条項」の創設を優先的に目指す方針を示した。
茂木氏は「新型コロナウイルス禍を考えると、緊急事態に対する切迫感は高まっている。様々な政党と国会の場で議論を重ね、具体的な選択肢やスケジュール感につなげていきたい」と述べた。

しかし筋違いの理屈にしか思えない、法律の問題ではない。緊急事態宣言は9月30日をもって全面解除されたが、田村前厚生相は「よく分からず減っている」と言い、政府の施策が感染を封じ込めたとは言えず、新規感染者が減ったエビデンスが全くなかったようです。「政府が求めてきた「飲酒なしの少人数会食」や「営業時間の短縮」「アクリル板の設置」「テレワーク活用による出勤者の7割削減」がどれぐらい「激減」に寄与したのか、どの施策が減少の決め手になったのかまったく分からない状態なのです。感染拡大がどうして止まったか、その「エビデンス」が無ければ対策のしようがなく法律の問題ではないのです。
大阪市立大名誉教授の井上正康氏によれば、海外の例を見てもウイルスの特性で感染対策の有無にかかわらず周期的に増減をくりかえし自然に消滅していくと指摘しているようにデータを見れば分かる事です。

日本の新型コロナ対策がこれまで「後手後手」に回って来た背景には、「エビデンス」の収集を疎かにしてきたことがある。つまり、因果関係を解析しないままに対応策を決めるため、「場当たり的」にならざるを得ないのです。
政府の無策を棚に上げ「法律がないからコロナ対応ができない」は理論的に矛盾している。
最近、地域の多くの人から政府が進めている緊急事態条項に非常に心配しているとの声が聞こえてくる。

憲法学者である蘆部信喜氏による緊急事態条項の説明にも、「平時の統治機構をもってしては対処できない非常事態において、国家権力が国家の存立を維持するために、立憲的な憲法秩序(人権の保障と権力分立)を一時停止して非常措置をとる権限」だとあります。
天皇や軍に権力が集中したことによって侵略戦争に突き進み、歴史的な犯罪・虐殺・犠牲を生み出したことへの反省から、憲法は「あえて」緊急事態条項を設けていないのです。これは帝国憲法改正案委員会の議事録にも明記されています。

では、大災害が起きた時にはどうやって日本を守るの?という不安については、憲法は整備されている。
一つは、衆議院が解散しているときに災害が発生した場合、参議院の緊急集会を開き法律や予算を審議・決議できるものです(憲法54条 2 項)。 もう一つ、参議院を開くことも難しい場合、内閣が法律の範囲内で罰則付きの政令を出すことができます(憲法73条6 号)。

災害対策基本法は、緊急時に内閣に対して、生活必需品の配給や物の価格の統制など、四つの事項に限定して立法権を認めています(正確には「緊急政令」)。
人権を制限する規定も既に存在しています。都道府県知事の強制権として、救助のための従事命令、施設管理や物資の保管・収用命令など罰則付きで命令できます。市町村長の強制権もたくさんあります。設備物件の除去命令、他人の土地・建物・その他の工作物の一時的な使用・収用、現場の工作物または物件を除去させるなどです。
災害時の権力活用について、これだけの法律が既に整備されているのです。
現場の声も緊急事態条項を不要としています。
東日本大震災後の、毎日新聞の調査では、緊急事態条項が必要だと答えたのは、被災 3 県の自治体で 1 町のみでした。

ナチス・ドイツの緊急事態条項使用例
ヒトラーは、国内の暴動を共産主義者によるものだと断定し大統領に働きかけ、「ドイツ国民を防衛するための大統領緊急令」を出しました。政府批判を行う政治組織の集会・デモ・出版活動等が禁止されました。野党の党員への連行・逮捕が繰り返されました。
そして選挙戦の終盤、国会議事堂が炎上。ヒトラーはこれも共産主義者による暴動だと決めつけ「国民と国家を防衛するための大統領緊急令」という非常事態宣言が出されました。
結果、司法手続きなしに被疑者を逮捕できるようになったのです。

自民党改憲案の緊急事態条項は大変危険。
第98条(緊急事態の宣言)第 1 項は、「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。」として、法律で定めればいくらでも緊急事態の宣言ができるようにしています。例えば大規模なデモやストライキを口実に緊急事態宣言をすることも可能です。しかも、「衆議院解散中」などの時期の限定がないので、いつでも緊急事態宣言ができます。

第 2 項は「緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。」として事後承認でも良い上、承認の期限がないので放置もできます。
第99条(緊急事態の宣言の効果)第 1 項では、「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。」とされ、国会を無視し、内閣だけで人権を奪う法律をつくることができます。政令を制定できる対象事項の範囲も決まっていません。
第 3 項では、「何人も、~国その他公の機関の指示に従わなければならない。」とされ、私たちは罰則付きで内閣の政令に従わなければならなくなるでしょう。
「いつでも」「法律で定めさえすればどんな理由でも」「あらゆる事項について」人権制限できるという、大変危険な緊急事態条項です。

緊急事態条項が使われるとどうなるのか?
自民党改憲案の緊急事態条項は、あらゆる事項について、人権を奪う法律をつくることができる。これはナチスの「授権法」と同じです。 気に入らない政党を禁止にすることも、都合が悪い言論・出版物を禁止にすることも、政府に対して批判的な番組・新聞社を潰すことも、労働者を戦争に強制的に動員させることも、それに歯向かう労働組合を解散させることも、政府を批判する者を裁判にかけずに刑務所に入れることも、戦争のために国民から財産を奪うことや外出禁止にすることだって可能です。「独裁」が可能です。
 
私たちには政府を批判する正しい情報が全く入って来なくなり、今も入ってきていませんが、政府をチェックすることもできなくなり、どんどん政府が暴走していきます。
「人権」とは、私たち一人ひとりが人間としての「尊厳」をもって「幸せ」に生きるために、生まれながらに持っている自由と権利です。限りある生を、自由に、個性を生かして、幸せに生きる。そのためには、命を奪われないのはもちろんのこと、健康で文化的な生活を営む権利、本当のことを知る自由・言いたいことを言える自由な結婚や、望む職業に就き働く自由・組合を作ったり組合で行動する自由が奪われてはなりません。

(憲法13条)。国家より国民が上なのだと高らかに宣言しています。 「三権分立」も、権力を暴走させないためのシステムです。 ところが緊急事態条項というのは、緊急時だということを口実に、緊急事態だと宣言さえすれば、「立憲主義」「三権分立」を破壊し、あらゆる「人権」を奪ってしまうことができるのです。ただ一つの「宣言」で粉々に破壊し、「独裁」をつくることができるのが緊急事態条項です。再び、『国民よりも国家を上にしようとしている』。あらゆる私たちの自由が奪われようとしているのです。
これから我が国はどうなるのでしょうか、懸念されるのはコロナ禍を利用して様々な法律を作り自由がなくなり、国民が政府に管理され利用される社会になるのではと不安を抱えている人がたくさんいる。

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